あたしとお前といつかのあたし

精神科のロビーで二度見される女

女だから、甘いお酒を少しだけ

スミノフを飲む男なんて男じゃない

日本にはたまたまなかっただけのこのセンスをあたしは痛いほど理解できてしまう

甘くて飲みやすい、瓶に入っているジュースみたいなもの、女が飲む飲み物だ

 

別にスミノフを飲む日本の男を貶すつもりはない

ただ、男ならば、女ならば、という考えを多様性を盾に否定するこの社会で、今一度考え直したい夜だ

 

あたしは12年間女子校に通っていたから、女同士の恋愛はきっと人よりたくさん見てきたし、あたしにだって女しか好きになれない時期があった

彼女がいたこともあったし、とにかく男を受け付けない時期で、ベッドに寝そべりながらなんとなく読んだ恋愛漫画も男という存在が気持ち悪くてすぐに読むのをやめた

iPhoneを手に持ったまま仰向けになる ロフトベッドで天井を見つめながら、少しだけ絶望のような味がした

この先あたしは結婚とか出産とか、まともなセックスもしないで世間から冷たい目で見られて生きていくのかと、当時の恋人の顔を浮かべながら考えた

なにより、彼女にも同じような境遇で生きていくことを強要してしまう気がしてものすごくつらかった

結局時が経てば男という存在への嫌悪感も消えて、今の恋人は男だし、このまま結婚して世間ではジェンダー的な意味では多数派の分類に属するのだろう

ただ、この経験がある以上、他人の性的嗜好には特に何も思わないし、むしろ同性同士の方がデートが楽しいことも、セックスに痛みが伴わないことも知っている

性差による違いなどに頭を悩ますこともない同性同士のカップルは、あたしの目にはとても美しく映る

 

その上で、性的嗜好と男女特性論をあまりにも混ぜて考えすぎている現代の日本社会にはうんざりだ

前提として、現時点におけるLGBTの分け方は性的嗜好に分類されるものだと考える

性自認や性愛対象を中心に分類しているからに他ならない

男女特性論は社会における性差に基づく性別役割分業に近い考え方であり、男は働き女は家を守るという近代までの考え方だ

現代はジェンダー論の移り変わりの境目に位置し、過渡期だ しかしそんな大事な時期に性的嗜好と男女特性論の区別がついていないような国はもう終わりで構わない

 

あくまで多数派に分類されゆくであろうあたしの持論を展開する

そもそもあたしは他人に強要することは好きではないので全てが主観であり、あたしから見えている風景を言語化するのみだ

こんな注釈が必要になってしまったのも、多様性を盾に頭の悪い人間と声の大きい人間がテキトーに作り上げたこの社会のせいだと思う

 

さて、まず性自認と身体的性別がどちらも女のあたしからすると、女であることは「変えられないこと」となる

その結果、女という生き物を楽しむことが最優先だ

自分の思う女らしさを突き詰めて服を着たいし、ネイルができない職につく気もない

もちろん生理は実害が多いイベントなので、全肯定できるものでもないが、低容量ピルの服用により1回が3日間で終わり、生理期間がカレンダーに書き込めるほど明確にわかるように調整している

食欲が大幅に増大するか減少するかはその日にならないとわからないが、明日から生理だとわかっているので前日から鎮痛剤を飲めるし、その期間に向けて薬や食料の準備ができる

血の量も予測できないからこそ月経カップを使っており、ナプキンは基本的に使わないスタイルだ

ここまで調整できると、「月1の体重気にせず食べていい期間」くらいに思えてかなり楽だ

ただ、自分が女だからこそ、これが通用したのはたまたま自分の体質と飲んでいるピルの相性がよかったからだということを自覚しているので、相手が誰であろうと生理に苦しんでいる女の子には「自分には理解できない苦しみがある」という気持ちで話ができる それでこその対話である

 

話を戻すと、自分の力では変えられない性別を楽しむ上でネイルやメイクはもちろん、フルパワーで楽しむ

当たり前に男のための美容ではない

これは無意識下の話だが、ネイルやメイクをする度に「女でよかった」と自分を肯定している日があるのではないだろうか

ネイルもメイクも、施した後は強くなれる気がする 女に生まれた自分を強くする武器のうちの1つであり、100%自分のための作業だ

 

ちなみに女には椎名林檎という最強のケツ持ちがいる

あたしたちのバックには椎名林檎がいて、女である自分を肯定し続けてくれる

立場や権力など、側から見えるものではなく、自身の精神を支えてくれる彼女のことを、あたしは心強いヤクザだと思っている

こればっかりは男に申し訳ない、なんて思うほどに力強い存在だ

 

あたしはウイスキーを飲む時に、必ずストレートで飲む

社会の思う固定観念に従順になる必要がないくらい、他の部分で女である自分を楽しみ、肯定しているからだとか思う

それくらいの話で、アメリカの男の人だって「スミノフを飲まない自分」によって自身が男であることを肯定しているだけだ

だから社会の固定観念を変えようとするなんて、頭の悪い人間の考えることだろう

頭がよければ社会ではなく自分自身で肯定する道を作ることができるから

 

まあそんなあたしは立派な社会不適合者で、きちんと社会からは見放されている

しかしあたしが生きたい社会はそこじゃないから、やっぱりどうでもいいな

 

それに現代の思想をどれだけ押し付けたとて、「男は権力、女は美貌」という潜在意識は消えない

社会の在り方を変えたところで個人の見え方までは変えられないのだ

性的嗜好と男女特性論の違いもわからずに話している人間が、差別と区別の違いなどわかるはずもないだろう

 

最後に一言だけ、あたしは差別主義者なの

だから頭の悪い人間は嫌いよ