マンチーに備えた夜食が用意されていて、部屋は煙草の匂いが充満している
誰にも見せられない状態のあたしが泊まっているから清掃はリネンの交換だけ、灰皿はもう溢れている
あたしはホテルに備え付けられたシャワーを浴びて、一段低いところにかけると慣れた手つきでバスローブを羽織る
ここに住んでいるわけではないのに、ここはあたしの部屋だった
2回ではないノックが鳴る
その合図で部屋を開ける時、なるべく無防備に見えるように、ノックが鳴るとバスローブを少し解いて髪の毛を揺らす
男が入ると、わざとらしく髪の毛だけを直して横に座る
夜食は用意されていると言ったはずだが差し入れを買ってくる男は、身体目当てだという気持ちを少しでもなにかで薄めたいのだろうか
そして自分用と言って買ってくる飲み物は、なぜかどの男も甘い炭酸水だった
靴を脱ぐとそこにはきちんと約束のものがある
知らない街だから、死んでもいいやと思いながら一息に吸い込む
空いた穴を塞いでも愛と呼ぶほど馬鹿ではない
音楽が、鳴っている
1人きりの夜をどう過ごすのかと不思議に思っていた
今のあたしには失うものがあって、その1番を占領する彼氏をこれ以上壊さないために自分を削ぎ落として生きている
毎日起きたら死にたくて、何もできない自分が毎日嫌いで、悪夢から醒めた現実が悪夢より酷いものだったなんて洒落にもならない人生が出来上がってしまって
それでも幸せな人生を歩んできた彼氏を不幸にしてしまうくらいなら、不幸な人生を歩んできたあたしが奈落の底に堕ちればいいと思っている
あたしが見てきた底たちよりはきっとまだマシだから、大丈夫
寒気がして湯船を張る、その前にたまには1人きりで楽しんでやろうかとマッチ箱を取り出す
湯船で熱った身体にバスローブを羽織る
なぜか湯船はいつもと変わらず熱くもなかった
音楽は鳴らない
音楽が、鳴らない
俺たちはロミオとジュリエットだねと、1週間だけ恋人同士になった男を元彼と呼んでいいのかはわからないが、確かに愛している男が横にいる
こいつがいなければ、あたしは誰からも逃げずに人生を過ごせた気がするし、同じようにつまらない人生を送っていた気がする
お金に困ることなんてない癖に、コンビニのパンをおいしそうに食べていた
近所のカレー屋なら顔が効くからと、持ってこさせたカレーとナンのセットは、確かにものすごくおいしくて堪らなかった
月が綺麗だよ、とお前がつぶやく
それがわざとなことを知っていても、どうしても嬉しかった
携帯のストラップよりも記憶に残る、たくさんの言葉をくれた
寒いねと言うと、吸ってるから仕方ねーだろとテキトーにあしらわれてしまった
帰り道、お前の家は近いようで遠いなと思いながら電車で思い出の曲をかける
音楽が、鳴っていた