エイトビートが、あたしを救っている
大好きなものが3つと大切なことが1つあるけれど、今年の2月はなにもない
生きている気がしない
ひたすらデパスをベッドサイドに出して、なんとなく口に入れながら、ロックンロールに浸っている
寂しくなった夜にランダムで電話できるアプリを入れて、昨日はそこで夜通し話していた人と話していた
彼はあたしを彼女にしたいと言い張り、ペアリングの話などをしていた
新宿駅で待ち合わせて、ホテル街のコンビニで「今の彼女への罪悪感が湧いてきた」と言われた
「あたしがタイプじゃなかったんでしょ」と言ったら気まずそうに頷いていた
待ち合わせた時に、想像していた人とは全然違う人が来たけれど、こんなものなのだろうと歯を食いしばって歌舞伎町まで歩いたあたしが愚かで笑えない
予定はなくなったものの、そこまで悲しくなかったのは翌日の今日が大好きな人と大好きな場所で大好きな人に会いに行く日だったから
彼は明確に一緒に行くとは言わなかったが、性格上来てくれると思っていた
12月はあたし側の理由で、同じ場所にいたのに話ができなかったから、この日をずっと楽しみにしていた
雪の中ヒールを履いて出かけたあたしが可哀想で、路上で煙草を吸っていると、男に声をかけられた
コンビニの時点で複数の友達に声をかけていたから適当にあしらうつもりが、無理やりマンションに連れて行かれた
彼は生配信をしていて、断ってしまったらインターネットの海にノリの悪い女として容姿を晒されるだけで、着いていく以外の選択肢がなかった
普段なら向かっている途中に走って逃げることができるのに、高いヒールと雪の跡でそれすらもできなかった
「ご飯作ってよ」と言うと、「かわいいから特別ね」と言われスーパーに寄った
かわいいから特別だなんて言葉は言われ慣れているのに、タイプじゃないと言われた寝不足のあたしには少しだけ沁みてしまった
移動中もずっと配信をつけていて、あたしは孤独だった
それなのに逃げることすらできない自分を、もう好きではいられなかった
彼の家に着くと炊飯器しか調理器具がないといい、自炊しない男の賭けの炒飯作りが始まった
その間の配信を乗っ取り、話をしていたらコメント欄の人たちは優しかった
ご飯を食べている間も配信をつけ、彼は見たいテレビがあると言い、あたしはユニットバスの中で1人代打で配信をしていた
所詮彼女持ちの男に誘われて雪の中出かけた女、配信を切ったらその男とセックスするのだろうと思われていて、寝不足のあたしにはちょうどいい自傷行為くらいに思っていた
1人の配信になると、「気をつけて」「自分を大事にして」「とにかく心配」とコメント欄の雰囲気が変わった
正気に戻った気がした
服を奪われて彼の部屋着を着させられている状況で自分を大切にしながら帰るための案を考え出した
彼が戻ってきて、配信を彼に譲り、少し考えて部屋に戻ると、コメント欄は「200%いける」「所詮ホテル行こうとしてた女だろ」と雰囲気が変わっていた
IDはさっきあたしを大切にしてくれた人たちとは違うリスナーだった
配信を切って、ベッドに入る
ナンパとはいえ、あたしと話すわけでもなく配信ばかりしていた男だ
まずはマッサージを頼むと、彼はテレビを見ながらあたしの身体を触っていた
配信を切ってもあたしのことを見てくれない男に身体を許す義理などない
偏頭痛持ちを理由にセックスできないと明確に断り、仮眠をとって帰ることにした
彼は拗ねていたけれど、自慢にならない歌舞伎町の年数はあたしのほうがずっと長いの
命からがら逃げ出して新宿駅に向かう
送り届けようとした彼はまた配信をつけていて、あたしの家がバレるのも嫌なので無理やり解散して、逃げるように家に帰る
電車に乗って座ってLINEを見たら、生き甲斐だった今日のイベント中止の連絡が大好きな人から来ていた
なんだかんだそれを連絡してきてくれた彼は、一緒に行くつもりだったのだろう
ただ、生きがいを失ったあたしは眠剤ODでもして記憶を飛ばそうとした
しかし家に帰って湯船に浸かり、眠剤を手にしようとしても、容姿を否定されたあとに半分拉致されて命からがら逃げ出したあたしは疲れていた
眠剤に手を出すままなく眠っていた
起きたら朝だった
晴れていた
今日のイベントが中止になった理由は荒天が理由だったのに
それでも大好きな彼に遊ぼうだなんて連絡する勇気があたしにはない 情けない女だ
Instagramを開くと、炊飯器で作った炒飯の写真をあげたストーリーズに5月に捨てた男から連絡が来ていた
あたしの食の好みを知っているかのような口ぶりで、元彼というよりは彼氏ヅラみたいな文章だった
そのストーリーズはあたしが半拉致されて、最悪殺されてでもした時に友達が探してくれるための万が一用のSOSであげたストーリーズだったのに、そんなことも察することなく彼が送ってきたメッセージには「たまにあたしのストーリーズを見るとおもしろい」だと
嫌気がさしてリビングに降りると、母親が「昨日はどこに行っていたの?」「どうせ言えないようなことをしていたんでしょ」と嫌味をたくさん詰め込んだ無神経な言葉ばかり浴びせられた
あたしにも悪いところがあると、レトルトのハンバーグとレトルトのハンバーグを温めて食べていたが、理由もなく涙が出てしまった
気がつかないようにしていたつもりの昨日の傷が消えていない
翌日の今日になっても言葉の暴力は2度も浴びた
彼らに傷つける意図がないことはわかっているけれど、なにも知らない彼らの無神経な発言で、気がつかないように蓋をしていた傷口が広がってしまった
部屋に戻ってデパスを口に入れながら、ロックンロールを浴びた
群馬県高崎市からきたあのバンド、スクールカーストの底辺から青春を歌いにきたあのバンド
あたしはこの2バンドのライブ映像を観ながらひたすら泣いて、たまにデパスを口に入れていた
部屋がノックされて父親が「○○って人たちから荷物が届いているよ」と声をかけてくれた
新潟県上越市からきたあのバンドだ
確かに受注のグッズを買っていたが、タイミングも相まってプレゼントとしか思えなかった
「椎木!ありがとう、椎木!」と名前を叫びながら泣いているあたしを父親は不思議そうに見ていたが、空気を読んだのか部屋のドアを閉めてリビングに戻って行った
Instagramを開くと、群馬県高崎市からきたあのバンドのベースボーカルがストーリーズを見てくれていて、ハートをくれていた
お礼に送ったメッセージにもハートをくれていた
ロックバンドが、バンドメンバーたちがあたしを救ってくれている
この話は、今日会うはずだった大好きな人に話したかった
いつも通り聞いていないふりをして、ある日その話をしてきて、驚くあたしを見て少し笑っているあなたと、今年も一緒に花火をみるの
花火よりもあなたの横顔を見つめているあたしに気づいているくせに、見つめ返さないで花火に集中しているふりをしている夏のあなたが、もう恋しいの
慣れないあなたの横顔に慣れてしまうのが怖い
でも慣れてしまっているあたしがいて
そんな当たり前だった毎日がただ恋しいだけなんだ