あたしとお前といつかのあたし

精神科のロビーで二度見される女

お洒落の裏側

毎日のようにオンラインショッピングで買ったものたちが大量の箱で届く

両親は心配しているが、あたしが悪い そんなことはわかってる

でもあえて、買ってくれる男に買ってもらっていいならばとっくにそうしている、とだけ吐き捨てて、昔の話をしよう

 

季節が変わるたびに複数の男があたしに似合う服を選んでは買ってくれていた

頭から爪先まで、男とデートするたびにいくつかのフルコーデが増えていく

あたし個人のファッションへのこだわりなんてなかったから、なにを買ってもらっても嬉しかった だからこそ、あたしが欲しいと言ったものは誰でも簡単に買ってくれていた

 

欲しいものなんてなんでも手に入る

 

夜中に会う男はほとんどのお店が閉まっているので、真夜中のドン・キホーテであたしに貢ぎ物をする

男が持つカゴめがけて、目に入ったものを投げ込んでいく時間は比較的好きだった

シャンプーやコンディショナー、その詰め替え、ヘアオイルやヘアミルクなどの日用品は、コストもかかるし買いに行くのが面倒だ

当時諦めようと思った男にピアスを開けさせて、一生残る傷を自分に作ることに意味を感じていたあたしに取って、そのピアッサーを自分で買う意味もわからなかった だから朦朧とした意識の中、心の中で好きな男の誕生石のピアッサーを投げ入れていた

ネイルチップやマニキュアなどのネイル用品は、手先の器用なあたしからすればドン・キホーテで揃うものを土台にネイルができる

そういえば今日会うのお前の日程に合わせたんだぞ、あたし仕事帰りだからヒールなの 歩くの痛いからこれでも履くわ、と自分の好きなキャラクターのルームシューズを投げ入れる

「こんなんで歌舞伎歩くのかよ」と大爆笑している男友達は、なんだかんだで同じキャラクターのクロックスも買ってくれた

 

ドン・キホーテ仕入れた海外のお酒を片手に飲み干し続けながら夜の街をひたすらに歩く

楽しいことは、たくさんした

自殺者が多いビルの屋上からメントスコーラをしたり、向日葵が咲いたら綺麗だね、と食用ひまわりの種を蒔いて歩いたり

だいたい荷物が多くて、深夜までやっている穴場のお店に行き着く

煙草を吸って、少し仕事の話をする

歌舞伎で売り上げを持っている人間は、酒に飲まれることはない

 

解散して他の男と会ってもいいし、この男の家で休んでもいいし、まだしばらくここにいてもいい

そう思いながら、その日その日の夜を過ごしていた

 

書き出しに戻ろう

薬は定量になった 大好きな彼氏ができた 別に実家にいることを不満だとも思わなくなった

あの頃の自分は、幸せになりたいとか考えたことなくて、今の自分をどう思うのかがわからないことが悲しいけれど

今は幸せな気もするし、幸せなフリをしているだけな気もする

 

男が買ってくれていた服は自分で買うようになった

収入は至極真っ当なルートで、きちんと時間通りに行かなければならない仕事ばかりだ 最近は仕事を探すと言い張って半年くらいが経ってしまった

貯金を切り崩して買い物をするあたしを両親が心配する気持ちもわからなくはない

 

ふと、あの頃に戻りたくなる

どうしても手放したくない彼氏が、眠れない夜もずっと電話だけは繋いでくれている

彼がいなければあたしは今でも、ブロンの瓶を逆さにして口に放り込みながら、この時間も酒を飲んでいただろう

それでも、彼がリスカやODを辞めさせてくれた感謝と、初めて人をきちんと好きになれた自分を大切に生きていくと決めたの

あの頃に戻るいっときの快楽は、一生を添い遂げる彼氏には到底敵わない

 

そうして今日も、「何もできなかった」日を終わらせるために睡眠薬を飲んだ

だいぶ前に飲んだけれど、効かなかったようだ

 

オンラインショップで買い物でもしようか