あたしとお前といつかのあたし

精神科のロビーで二度見される女

特別な錠剤

季節の変わり目ともいえないのに鼻が詰まってしまった

ジャンキーあがりをいいことに、いつもより熱が高ければ風邪薬を飲むし、1度でも咳をすれば咳止めを飲む

量は規定通りなんだから悪いことはしてないし、なによりお前に関係ない

ただ、今回の鼻詰まりはどれでも治らず、かかりつけの薬剤師に助けてもらうことにした

いつも通り世間話をしながら、彼女が手際よく作ってくれた漢方薬のお湯割りを片手に錠剤を飲み込む

3錠と言われたので、きちんと3錠だけ出して口に入れた

 

「あなたはいつもこの開け方ね」

あたしを全て知っているかのような口調の彼女は呆れ顔だ

横2錠が縦に5列配置された、ありがちな10錠シートに対して、乱雑に開けられた真ん中の3つの跡を見る

いつからだろう、端から薬を飲まなくなったのは

 

あたしはまだ若いから、端から開けなくても残りの錠剤の数くらい一目でわかるし、低容量ピルのように曜日で決められているわけでもない

昔はシートごと飲んでいたから、細かく切って持ち歩くのは好きじゃない そんなことするなら今全部飲んじゃえよって思ってたな

 

定量通りに飲むようになってからも、1シートを切らずにポーチに入れて持ち歩くから、やっぱり10錠のシートを切る選択肢はない

確かに端から飲んでゴミになった部分を切って捨てる人とかいるよね

あと飲む分だけ切り取って持ち歩く人とかさ、急に帰りたくない気分になったらどうするんだろ 他にも思いがけずのお泊まりとか、そもそも飲むたびに補充するなんて面倒で仕方ない

あたしにはできないなあ、でもその人たちの持ち歩き方はあたしには関係ない

 

でも知ってる

これはほんの少しのあたしの幸せ

2×5に配置された1番上と1番下の4つの錠剤は、なぜか特別に思える

1人で乗った電車で座る時に、端の席でゆっくりできる感覚

大好きな友達と2人でご飯に行った時、窓際の端の席が2つ横並びで空いてた時くらいの幸せ

あたしの小さい幸せがそこにある

だから、元気のない日のあたしにその薬をあげたいなって思うの

端から飲んだら、普通の日に特別を消費してしまうし、元気がない日も薬を飲む場所に「いつも通り」を求められてしまう気がしちゃう

元気がない時に薬を飲むだけでもえらいじゃん

生きようとしてるし生きてるんだから褒めてほしい

 

だけど他人に期待するほどバカじゃないから、自分だけの特別をありがたく受け取る

2錠ずつ飲んで10錠を飲みきるとき、端から飲んだら特別を消費するのは2日間だけ しかもその2日間は選べない

でもその時飲みたいところを選べば、大事な日4日までつくれるでしょ、ほらすごいでしょ

どうしても元気がない日は特別を2つ消費する しかも上の段と下の段から1つずつ それだけで、ちょっと頑張れる気がする

 

こうやってあたしはあたしを励ましながら生きてる あたしの世界では、誰よりもあたしがえらい

なによりお前に関係ない