あたしとお前といつかのあたし

精神科のロビーで二度見される女

なにもない木曜、正午

アラームが鳴った

恋人の名前を呼んだが、声が掠れていた 返事はなかった

朝のアラームを止める動きをしたが、アラームはまだ鳴っている 薄目を開けると両手を畳み込んで寝たままだった

「この夢の続きが見るために起きるか否か」を選択したことが記憶に新しい この夢で2度目の決断だった

徐に手を動かそうとしても解けなかった ようやく腕が動いて携帯電話を見ると、彼の昼休みのアラームだった

そういえば、コンサータを飲んでいた

ベッドの上に開けたまま置いたはずのエナジードリンクは机の上に置いてあった

1度目に「この夢の続きが見たい」と目を瞑ったのは、父親に名前を呼ばれたタイミングだったことを思い出す

ずっと夢を見ていた 眠っていたわけではない証拠に、目覚めのようなこの感覚は、寝起きとは違うはっきりとしたものだ

ここまで自ら文章をつくって初めて気づいたことは、夢ではなく、解離を起こしていただけだということ

 

確かに恋人が、彼氏である場面と並行して旦那である場面があった むしろ前者の方がずっと少なかった

泊まると思っていたのに帰ると言われたり、複数の家族が集まっている会で、ようやく10人程度の子どもたちを寝かせるというときに1番に寝てしまったり、思い返せば普段寂しく思っていることが人前で起こっていた

それでも、家主の母親に「大人は高級カレーを頂きましょうか」と提案された時、玄関先で必死に取り下げようとした あなたはルーで作るカレーが嫌いだから

 

あたしの部屋であなたが談笑している

それをいいことに、あたしは隣の部屋に呼ばれて体を触られている

助けてと叫んでも、来てくれるのがあなたじゃなかったら、あたしはただの尻軽女に成り下がるから、ひたすらに手を掴んで耐えた

付き合いが長いその男に、「あたしが彼と出会う前ならいくらでも相手をしたのに」と言う その男はミュージシャンだ

 

心に諦めがつかなくなってから受けた1件のレイプがあたしを変えた

もともと解離性同一性障害の傾向はなかった それが頻繁に、現実と悪魔が融合した世界に飛ばされてしまう

 

1人でよかったと思った

そんな怖い世界でも、あたしの中であなたはいつも味方だ 故にこの前は記憶が混同したまま現実でのあなたに酷いことを言った

いや、偶然記憶があるだけで、毎回のように酷いことをしているのかもしれない

夜中にあたしが解離を起こしたと教えてくれる朝のあなたはいつだって寝不足だから

 

たくさん入れたはずの予定も全て消えていた

解離は孤独な世界であるはずなのに、記憶が所々残る あなたは今、あたしの部屋にはいない 長年の付き合いの上で嫌なことをしてきたミュージシャンなら、知り合いでもない

そういえばあの時、被害者として回想するも「加害者による抵抗できないほどの"暴行"」はなかった これでは訴えたところで、強制性交にはならないなと考える

 

すべての事象が真となる現実世界に帰ってきてしまった

強制性交の定義は、この前電話で刑事課から伝えられた「社会における決まりごと」である

 

ああ、お前が噂の"現実世界"か