あたしとお前といつかのあたし

精神科のロビーで二度見される女

焦燥

眠れない

恋人があたしのベッドを占領している

彼の寝姿を少しずらして、座る

 

ずっと死にたいと願っていたのに、いつのまにか生きていくことを考えている

幸せも大変だなと愚痴を吐いたら、「死んでください」と言われた 随分な直球だと思った

ようやく落ち着いたと言われる現在は、昔と比べ物にならないほどの心労がある

なにより、失いたくない人がいる

そのために色々なものを捨ててしまった

もう後戻りをするつもりもない

 

周りの人間は、あたしが彼に惚れたとか、彼に決めたとか、そのくらいの「好き」を想定していることが多い

少し違う

あたしは「一緒に歩む人生」を選択し、彼という存在に残りの寿命を全部賭けたのみだ

そりゃ一緒に居れば嫌な部分も見えてくる

それでも仕方ない、残りの寿命はすべて彼に賭けてしまったのだから、気に入らないところごと愛してしまうしかないのだ

 

それでも、嫌なことはある

存在価値を見失って、こんなに幸せに見える今ですら死にたくなることがある

 

彼は寝ている

どうせ仕事で疲れているから、もうセックスをする気などないのだろう

未だにセックスに承認を感じているあたしには、彼の体力が落ちていることは大問題だ

 

寝顔を見ると、どうしてあたしはこんなにもだめな人間なのだろうかと悲しくなった

あなたのことは、あたしが幸せにしてあげなきゃと思う

あたしはあなたと出会えてじゅうぶんに幸せを知れたから、あたしを選んでくれた恩返しは、一生をかけて彼を幸せにすることのほかない

女だからって幸せにしてもらおうだなんて、微塵も思わない

 

ベッドの足元のキセルに手を伸ばし、火をつける

深呼吸をして勢いよく吸うと「嘘でしょそんなことある?」と彼が話しかけてきた

あまりにも怖い

「一瞬で完全に目が覚めたわ」と言うあなたを怖がっていたら、あなたは寝た

どこの目が完全に覚めたのか教えてくれよ、と思ったが別に笑えなかった

 

どうして怖かったのだろうか

何があたしを追っているのだろうか

 

でも死ぬことが少し怖くなくなった

だって全部彼に賭けてしまったから

自分の命より大切なものなんて、いくらでもあることを証明したから

 

薬が足りない どうしても、足りない