息が苦しくて涙が止まらない
横にいるお前があたしの口に金属を当てる
「吸え」
世の条理で語るならばおそらく間違いなのだろう、それでも今のあたしにはこれが救いだ
精神病患者だと周りから貼られたレッテルを受け入れて少しだけ大人になった21の冬、睡眠薬の売買と援助交際で生計を立てていたあたしに1年前の男が話を持ってきた
「女の方が都合いいんだ 交通費なら出すから手伝ってくれないか?ついでにお前も少しは買うか?」
軽い気持ちでその話を受けて、予定通りに事は運ぶ
初めて出会ったそいつとの相性は正直悪かった
帰り道、夜の東京はいつもより新鮮で冷たい空気に満ち溢れていて、元彼の家からの帰り道にはコンビニで食べ物を買い漁り口に入れ続けた
よくわからないけど、なんとなく幸せだった
メアリーとの出会いはつまらない日常に一部として溶け込んだだけだったが、その日は少し呼吸が心地よかった気もする
先輩、ねえ先輩
あたしを壊した男の快楽をあたしも味わいたくなった
極上の味覚で食材を感じて、身体に根が生えて沈んで行きたかった それで死んでもいいとまで思った
いつもは食べないお寿司やチョコレートを大量に買い込み、メアリーと再会を果たす
いつのまにか時間がだいぶ経っていて、目の焦点は既に合わなくなっていた
先輩は明治のチョコレートが好きだったから、あたしはガーナのチョコレートを選んだ
あなたのことが好きだった
そんな感情になると決まって色んな男の顔が浮かぶ
そんな穢れた自分を少し愛おしく思った
捕まるのは嫌だから彼氏に本当のことを話したら警察に電話すると弱みを握られたようなカタチになって、心療内科でそれを相談したらなんだか大袈裟に捉えられ、誰もわかってくれないと思うたびにメアリーと会う
売り捌くために多めにあったはずなのにいつのまにかちぎってキセルに入れるようになる
奴はある日いなくなった
当たり前だが、いなくなったことが少し寂しかった 少しだけキセルから漂う香りに懐かしさを覚える程度になり、終いにはもう存在を忘れていた
ある日ふいに再会してしまった
色んなことを思い出した
お前がいないと生きていけないよとその時は思ったけれど、目が覚めた時にはもうその感情は残っていなかった
さようなら
何度もそう呟いたけれど、どうせまたいつかどこかで出会うのでしょうね その時はお手柔らかに、なんて言ってないできちんと別れを告げられる日が来ればこの上ない
そんな日が来る日、きっとあたしはこの世にもういないんだ