あたしとお前といつかのあたし

精神科のロビーで二度見される女

スイセンが咲く夜

小説家の死は自殺が多い

文学を突き詰めて、世間が勝手に作り上げた自分らしさを織り交ぜて、それでも自分の描きたい世界を全て言語化して

死を決意するのは思い詰めて限界を感じた時なのか、それとも自分史上最高の文字を羅列できた時なのか

行間の多い作家は短編が向いている 少ない言葉数で赤の他人の心を動かせるのだから

 

あたしは小説を書いていた

今でも書くことはあるけれど、時代のせいか手書きで書くことはなくなった

長編小説の処女作は「生きて罪を償え」と遺族が加害者に向けていた刃物をゆっくりと下ろしながら涙するクライマックスを迎えるものだった 我ながら9歳の書く文章ではない

その後も何作も書いたが、ふとブーゲンビリアの小説を思い出した 題目だったのか主題だったのかは忘れてしまったが、目を瞑りたくなるほど美しいあたしの大好きな色の花を題材に恋愛小説を書いた気がする

"あなたしか見えない"という情熱的な花言葉が当時のあたしのお気に入りだった

あたしの影響で小説を書き始めた子が水仙花言葉を題材にしていて、あたしも書きたくなった みたいな経緯だった気がする

別に、思い出しただけ

 

無許可であたしにベタベタと貼り付けられたレッテルたちを剥がして確認する作業ならもうやめた

自分は女の子としてかわいく生きて、好きな人に健気に想いを寄せて、やると決めたことはやるって

誰がなんと言おうとあたしはかわいい 毎日頑張って生きてる 文句を言わせる隙すら与えるつもりはない

 

そう言い切れなくなってしまいそうな孤独な夜に、文字列に想いを捧げている次第だ

眩しいほどの黄色が上品に全体を占めている水仙の花を思い浮かべる

思い出したくない時代にあの子が題材にしていた花だ

誰にも相手にしてもらえないこんな夜に奇しくもぴったりな花言葉を添えて、きっと目が覚めて青色が残った舌で何事もなかったかのように社会に溶け込んだふりをするだけの自分へ書き残しておこうではないか

 

自信に満ち溢れた自分を必死で演じているうちに自分を見失ってしまったあたしへ

あなたには水仙がお似合いよ

 

………花言葉は「自惚れ」