あたしとお前といつかのあたし

精神科のロビーで二度見される女

くすんだ白のマグカップ

一杯のコーヒーが、好きだ

目が覚めると両親のどちらがあたしの分として置いておいてくれている、あの一杯のコーヒーが好き

 

お笑い芸人が好き

単純に漫才師がかっこよくて、よくお笑いを見に行っている

でもなにより感謝がある

 

自宅のブルーレイが壊れて新調した中では最も古いTHE MANZAIは毎年トリミングの編集をして保存してある

その中で2015年の分だけ簡単に消えないようにプロテクトされてるんだ

両親はその理由を知る由もない

あたしはこの頃よく、"お笑いが好き"を口実にテレビの画面に近づいて、ずっと1人で泣いていた 誰も泣いているだなんて思わない 涙を見せないように"家族"として理想の娘を装うことで必死だった

きっとあたしの我慢した涙なんて誰にもみられたことなどないはずだ

泣き声が出そうになっても、あたしに興味のない彼らには、必ず笑い声に聞こえていたはず

 

どんなときにも、そんなときにも、いつだって漫才を見ていた

本当に救われた

 

そんなことを思い出してゆっくりとしながら2015年のTHE MANZAIを流し見している

この年の録画は、笑いながら泣いてしまう

素直に笑えずに、必死で作り笑顔を指でつくっていたことが蘇ってしまうから

あの時はいつだって、精一杯指に力を入れて口角を上げていた

 

親不孝の自分が、今日は別に憎くない

戸籍上仕方なく"娘"になってしまっているので悲しいことに彼女は母親だ

そしてあたしは母親のことがとても好きだ

何度言われても彼女があたしに言ってくれる「好き」を信じられたことはないけれど、きっと向こうも同じだろう

彼女に今日はなんだか強く当たってみた 別に大した理由なんてない

 

そういえば今日、一杯のコーヒーを投げつけた