あたしが知らない間に、あたしのことを攫ってほしい
そう頼み込んだことがある
自分から逃げ出す勇気はないけれど、このまま死ぬくらいならばどこか違う場所で死にたいと思ったから
助け出してほしい、の先にあった叫びだ
でも、あなたがそれを実行するとあなたは誘拐の罪で裁かれてしまう
あたしが頼み込んでいるのに
逃げ出し方も、逃げる場所も、なにも思いつかないあたしが、唯一あなたと居たいことだけを理解して頼み込んだのに
なぜか、あなたが罪人として罰を受ける仕打ちだ
あのときあなたがあたしを攫わなかったのは、自分も一緒にどこかに行くことで仕事とか休むのが面倒だっただけだよね、それはわかってるからね、別に平気。
大事な友達に「殺して」と言われてもあたしが殺さないのは、殺人罪で裁かれるからではない
あんたに先に死なれたくないから
あと、あたしにはあんたを殺す資格がないから
ごめんって毎回思ってるんだよ
そうは言ったものの、誰かがあんたを殺したら、きっとあたしはその誰かを殺しに行く
なんで頼みを聞いてしまったのか
他の誰かがあんたを殺すなら、あたしがあんたを殺してやると言える日だってある
でも、恩人だよね
攫ってくれる人も、殺してくれる人も
この国は法治国家だから、願いを聞き入れてくれた恩人側が悪者だ
感情論はやめにしよう
この国は資本主義だから、どんな言い分よりもお金がモノを言う
正義なんてない、全ては金で黙らせろ